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欧州巨大ヘッジファンドがSPACに警戒
最近の金融市場では、SPAC(スペシャル・パーパス・アクイジション・カンパニー)が大きな注目を集めています。SPACは、特定の事業を持たないブランクチェック会社として設立され、公開後に既存の企業を買収することで事業を始動します。この投資手法は、特に米国市場で爆発的な人気を博し、その波は欧州市場にも押し寄せています。
しかし、この新しい投資ブームに対し、欧州の巨大ヘッジファンドは一石を投じています。彼らはSPACの持つリスク要因に注目し、警戒感を強めているのです。これらのファンドは、SPACの持つ不透明性や投資の質に懸念を示し、投資家に対してもそのリスクを理解するよう促しています。
この記事では、なぜ欧州の巨大ヘッジファンドがSPACに警戒するのか、そしてそれが投資市場にどのような影響をもたらしているのかを掘り下げていきます。SPACの基本概念から始め、欧州市場での動向、ヘッジファンドの懸念点、そして将来の展望に至るまで、詳細な分析を行います。次のセクションでは、SPACとは具体的に何か、その動向と基本的な特徴について詳しく見ていきましょう。
SPACとは
SPAC(Special Purpose Acquisition Company)は、ブランクチェック会社としても知られる特殊目的会社の一種です。これは、設立されたばかりで具体的な事業やアセットを持たない会社です。その代わりに、資本を調達し、公開後に既存の企業を買収することを目的としています。
SPACの設立プロセスは、次のような手順で進みます。まず、ベテランの経営者や投資家がSPACを設立し、株式を一般に公開(IPO)します。その後、SPACは一定期間内にターゲット企業を見つけ、買収交渉を行います。買収が完了した場合、SPACはターゲット企業と統合され、新しい組織として取引所に上場されます。
SPACの魅力の一つは、投資家が未知の企業や産業に投資する機会を提供する点にあります。また、SPACの株式は公開時から流動性があり、一定の価格で売買されるため、投資家にとって比較的リスクの低い投資手法と見なされています。
近年、SPACは特に米国市場で爆発的な成長を遂げ、多くの企業がこの手法を利用して公開市場に参入しています。しかし、欧州市場においてもSPACは注目を集めており、多くの投資家や企業がその潜在的な利点に注目しています。
一般の投資家にとっては、SPACのスポンサーに未上場企業の選定を任せられることが魅力の一つです。新型コロナウイルスの影響により不確実性の高まる相場で将来の成長予測が困難になる中、能力の高いSPACスポンサーの投資判断に賭けたいという個人投資家の意向と相まって2020年からSPACの上場が急増し、IPO全体の50%以上がSPACという結果になりました。
2021年も執筆時点(4月26日)で米国市場でのSPACはIPOの70%以上を占め、調達額1,000億ドル、上場数308件と既に2020年を超える水準と、SPACバブルともいえる状況となっています。
SPACのメリットと注意点
直近でブームとなっているSPACですが、どのようなメリットや投資する上での注意点があるのでしょうか。
SPACのメリット
スポンサー、一般投資家、被買収企業それぞれのメリットはこちらの通りです。
スポンサーはもちろん、被買収企業にとってもメリットの大きい仕組みです。通常のIPOであれば投資家からの需要に基づいて株価が決定されますが、SPACであれば固定価格での取引が可能です。市場のボラティリティが高い現在では、合併の対価を確実に決定できる点は被買収企業にとって大きなメリットと言えます。
一般投資家にとっても銘柄選定力のあるスポンサーに未上場企業での資金運用を任せることができる点はメリットと言えますが、注意すべき点も当然存在します。
SPACに投資する際の注意点
SPACの仕組みとして「SPACは上場から原則2年以内に企業の買収・合併を完了させる必要がある」というルールがあります。
2年以内に合併を完了させなければならないというプレッシャーから、一般投資家に不利な条件で買収を行ってしまうという利益相反の可能性があるといえます。
また、買収先の未上場企業について正確な評価を行うことは非常に難しい作業になります。
上場に見合う優良企業を選定できれば問題ありませんが、実際には個人投資家のマネーがSPAC投資に流れ込むことで本来であれば上場の基準を満たしていないような企業も上場できるようになっている可能性もあります。
実際に、合併後に株主にとって不利な事実が発覚して株価が大幅に下がることも多々あるようです。
例えば昨年6月にSPACと合併、ナスダックへ上場を果たしたニコラ・モーターは合併により大きく株価を上昇させましたが、その後誇大広告や虚偽の事業見通しを行ったとして会長が辞任、株価は合併前と同水準に落ち込んでいる状態です。
また、SPACによる合併後企業の株価は1年以内に30%以上下落する傾向があり、合併後までSPAC株式を保有する投資家のリターンは低い傾向にあることも別の調査で指摘されています。
SPACに警鐘を鳴らすヘッジファンド
SPACに対して懐疑的な立場であるマーシャル・ウェイスは、ポール・マーシャル、イアン・ウェイスの両氏が1997年に英ロンドンで設立したヘッジファンド運用会社です。
欧州株の運用で優れた手腕を発揮しながら規模を拡大し、現在の運用残高は550億ドルにも上る巨大ヘッジファンドです。2015年には機関投資家から最も評価の高いヘッジファンドとして評価された実績を持ちます。
創始者の1人であるマーシャル氏は、SPACに対して10億ドル以上のポジションを取っていることを明らかにしました。同氏は投資家向けのレターで、「SPACはスポンサーと一般投資家、被買収企業の歪んだ思惑が絡んでいる」と指摘。これまでひどいリターンをもたらしてきており、直近のSPACも例外ではないという見方を伝えました。
SPACに割り当てている資金のうち、直近ではショートポジションを増加させているそうです。
SPACのパフォーマンスは本当に悪い?
米スタンフォード大学ロースクールのマイケル・クラウズナー教授と米ニューヨーク大学のマイケル・オーロッギ助教が2019年1月から2020年6月の間に合併したSPACを対象に行った分析『A Sober Look at SPACs』で、合併から一定期間経過後のパフォーマンスを下表のように測定しています。
いずれの期間も平均値、中央値ともにマイナスリターンとなっており、芳しくない値動きとなっていることがわかります。
SPACの今後
昨年から続くSPACブームが今後も継続するかどうかは定かではありませんが、将来合併される会社を知らずにSPACスポンサーの手腕に賭けて投資するという点では非常にリスクの高い投資と言えます。
その仕組みやリスクを理解しないままに投資している一般投資家も多く存在していることが容易に予測されることに加え、SPAC全体のパフォーマンスも低調な推移が続いています。空売りを活用できるヘッジファンドにとっては良い収益機会となりそうですが、SPACバブルがいつまで継続するかは状況を注視する必要があるでしょう。