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大手ヘッジファンド・ミレニアム社の戦略と軌跡
入れ替わりの激しいヘッジファンド業界、その中でもミレニアム・マネジメントは一際目立つ存在です。ミレニアムは「ファンドの運用成績がマイナスでも顧客から手数料徴収」「ミレニアム、従業員創設の新興ヘッジファンドに出資へ-関係者」「ミレニアム、150億ドルを返還し、長期キャッシュへの移行を固める」と報道されるなど、その動向は常に注目されています。
本記事では、この著名なヘッジファンド会社の起源から現在までの成長、そして投資戦略や主要な人物を詳細に解説します。また、過去の有名なエピソードや現在直面している課題についても掘り下げます。
ミレニアム・マネジメントの歴史と創設
ミレニアム・マネジメントは1989年にイズラエル・イングランダーと彼の知人であるロナルド・シアーによって設立されたヘッジファンドで、580億ドル(約8兆円)以上の資産を管理しています。彼らは当初、35百万ドル(50億円)の資金を持ってこの会社を始めました。創業直後のミレニアム・マネジメントはパフォーマンスが低調であり、共同創業者であるロナルド・シアーは会社設立から6ヶ月後に退社しました。翌年の1990年からは運用は安定し、1990年10%、1991年12%と安定的な実績を出し始めました。
その後独自のマルチマネージャー方式で堅実な実績を積み上げ、ついに2019年にはLCH Investmentにより、ミレニアム・マネジメントは史上最も成功したヘッジファンドの12位にランク付けされました。その報告によれば、ミレニアムは創業以来、投資家に対して平均年間14%のリターンをもたらし、合計で224億ドルを稼ぎ出したと記載されています。
ミレニアム・マネジメントの投資戦略
ミレニアムの運用スタイルはユニークで、一つの統一された戦略を採用するのではなく、280以上の投資チームが独立して運用するファンド・オブ・ファンズのマルチストラテジーファンドのようなものです。各投資チームは、自分たちに割り当てられた資金を管理し、自分たちのリターンを上げる自由が与えられています。一方で、ミレニアムは追加のリソースと技術を提供して、各ポートフォリオマネージャーをサポートしています。
フラッグシップファンドの主要な投資戦略は、ファンダメンタルズに基づく株式投資、エクイティ・アービトラージ、固定収益戦略、そしてクオンツ戦略の4つです。
ミレニアム社の運用は多様な運用の組み合わせのため、一概には表すことが難しいですが、統一的な指針としては以下の5つが挙げられています。
- 一貫性の確保:一貫性は容易に得られるものではありません。ミレニアム・マネジメントは、高品質のリターンを提供するという使命を達成するために、揺るぎない集中力を維持しています。
- ダイナミックな状況への適応:投資環境は常に変化しています。そのため、ミレニアムはこれらのダイナミックな状況に継続的に適応することで、変化する市場環境に対応しています。
- 市場機会の積極的な追求:ミレニアムは市場の機会を積極的に追求しています。これは投資成果を最大化するための重要な戦略の一つです。
- テクノロジーとインフラストラクチャへの投資:ミレニアムは、高品質のリターンを実現するために、テクノロジーとインフラストラクチャに大きな投資を行っています。これにより、最新の情報や分析ツールを活用して最善の投資決定を行うことが可能になります。
- 多様な視点とアプローチの統合:ミレニアムは、様々な視点とアプローチを統合することで、投資の視野を広げ、より効果的な投資決定を行うことを目指しています。
ミレニアム・マネジメントの運用実績
ブルームバーグなどの報道によると、ミレニアム社のヘッジファンドは1990年からの30年超の歴史において、2008年の-3.5%以外はプラスの実績となっており、平均リターンは12%超、価格変動率は5%以下という非常に安定した実績を上げているといわれています。
ミレニアム・マネジメントは突出した高いリターンは少なく、どちらかというと安定的な運用で業界で名をとどろかせています。月次ベースの勝率は80%を超えているといわれ、より安定的なヘッジファンドに比べても月次の勝率は突出しています。
このように長期にわたって安定的な実績を上げているマルチストラテジーはPoint72やシタデルぐらいといわれており、近年の運用は独立したマルチポートフォリオマネージャーという仕組みも似ているのは偶然ではないと思われます。
創業者のイズラエル・イングランダー
イングランダーは1948年にニューヨークで生まれました。両親はホロコーストの生存者であり、彼はその影響を深く受けて育ちました。彼はバーナード・バーク大学で学び、1970年に経済学の学士号を取得しました。
卒業後、イングランダーはウォール街に足を踏み入れ、オプショントレーダーとしてキャリアをスタートしました。彼はイングランダー・カンパニーと呼ばれる私設投資会社を設立し、この会社での成功を元に、1989年にミレニアム・マネジメントを設立しました。
彼の哲学は、一貫性とリスク管理に重きを置くことを中心に展開されています。一般的にこのような哲学を持った場合、中央集権的な運用に進みがちですが、彼が取った手段はより客観的かつ分権的な運用でした。彼の戦略の主な特徴は、多数の独立したトレーディングチームにポートフォリオの管理を任せ、その結果をミレニアムの全体的なポートフォリオに組み込むことです。これにより、ミレニアムは多様な投資戦略を採用し、それらを効果的にバランス良く組み合わせることができます。これは、市場の変動に対する耐性を高め、同時に複数の利益源を確保することにつながったのです。
イングランダーはまた、テクノロジーとデータに基づく判断を強く信じています。彼の会社は最先端のテクノロジーを使って複雑な市場データを分析し、その情報を使って投資決定を行います。このアプローチは、イングランダーが科学的で定量的な手法に重きを置く彼の信念を反映しています。
それにもかかわらず、イングランダーは、自身の成功とその成果を共有することにも深くコミットしています。彼は数多くの慈善事業に寛大な寄付をしており、教育、医療、そしてユダヤのコミュニティへの支援に力を入れています。彼の個人的な富とビジネスの成功を使って他人を助けるという姿勢は、彼の人物像を強く象徴しています。
ミレニアム・マネジメントのエピソード
2001年から運用資産が増加し140億ドルへ
ファンドの運用資産(AUM)は2001年から2008年にかけて8倍以上成長し、グローバル金融危機前に140億ドルに達する
2008年の金融危機
2008年は多くのヘッジファンドが大きな損失を被った一方で、ミレニアム・マネジメントは機動的な投資戦略と優れたリスク管理により、この困難な時期を乗り切りました。同社のこのパフォーマンスは、そのリスク管理戦略の強さと投資の洞察力を示す好例となりました。この年ミレニアムは初めてマイナスとなり-3.5%を記録しました。
2015年より新規投資の受付停止
2015年には目標としていた資産額を達成したため、新規投資の受付を停止した。この停止は2018年まで続いた。
2019年より新クラスを受け付け開始した
より安定的な資本を集められるように、解約制限や報酬体系について変更した長期の投資家のみ受け付ける新クラスの受付を開始した。またそれに伴い新しいファンドマネージャーの採用を強化を始めた。
2019年の内部情報不正利用スキャンダル
2019年、ミレニアムの元トレーダーリチャード・キムがインサイダー情報を不正利用したとして訴えられました。これに対し、ミレニアムは迅速に内部調査を行い、コンプライアンスと倫理に対する同社の強いコミットメントを示しました。
COVID-19パンデミック
パンデミックは2020年に全世界の金融市場に混乱をもたらしましたが、ミレニアムはこの危機を乗り越える戦略を見つけました。同社は自宅からの作業をスムーズに進め、パンデミック中も安定したパフォーマンスを維持しました。2020年は25.8%プラス、2021年は13.5%プラスを達成しています。
ESG投資への取り組み
環境、社会、ガバナンス(ESG)を重視する投資が増える中、ミレニアムもまたこのトレンドに対応しました。同社はESG基準を考慮に入れた投資を増やし、社会的責任を果たす企業としての地位を強化しました。
ファンド手数料値上げ
ミレニアム・マネジメントは管理報酬としてはコストパススルー方式をとり、成功報酬は20%とる方式をとっていました。今後成功報酬部分は資産の1%から投資利益の20%のどちらか大きいほうとなります。ミレニアムのレポートによるとこれはシタデルなどほかのマルチストラテジー戦略のヘッジファンドが採用している業界標準のアプローチの反映とのことです。
コストパススルー方式(Cost Pass-Through Method)とは、ヘッジファンドが運用上の経費や費用を投資家に転嫁する方法を指します。この経費にはファンドマネージャーの給料も含まれ、マルチマネージャー方式のヘッジファンドが有望なファンドマネージャーを採用する際に、競争力を持った提案を可能としています。
ブラックロックとの戦略的提携交渉
2024年11月、世界最大の資産運用会社であるブラックロックが、ミレニアム・マネジメントの少数株式を取得するための初期段階の交渉に入ったと報じられました。この提携は、ブラックロックがオルタナティブ投資分野での存在感を拡大する取り組みの一環とされています。ただし、現時点では正式な合意には至っていません。
(出典:US News)
トレーディングチームの拡大
ミレニアムは新しいトレーディングチームに多額の資金を割り当て、取引能力を積極的に拡充しています。
- 2024年12月
- 香港を拠点とするマクロトレーダーのロバート・タウ氏に15億ドルを割り当て、ミレニアムのために専属で運用を行う予定です。
- 一方、元マーシャル・ウェイスのポートフォリオマネージャーであるダニエル・エンゲルホール氏には、17.5億ドルを割り当て、同社の「アンドラ・パートナーズ」ブランドのもとでエクイティ・ロングショートチームを率いることが決まりました。
(出典:Hedge Week)
- 2024年11月
- ニューヨーク拠点の「スコピア・キャピタル・マネジメント」に10億ドルを託し、さらに元Kepos Capitalのクリス・トゥッゾ氏とウォーレン・エンピー氏に8億ドルを割り当て、ミレニアムブランドのもとで運用を開始しました。
(出典:Bloomberg)
- ニューヨーク拠点の「スコピア・キャピタル・マネジメント」に10億ドルを託し、さらに元Kepos Capitalのクリス・トゥッゾ氏とウォーレン・エンピー氏に8億ドルを割り当て、ミレニアムブランドのもとで運用を開始しました。
ジェーンストリートとの法的和解
2024年12月、ミレニアムはジェーンストリートとの間で法的紛争を和解しました。この紛争は、元ジェーンストリート社員がインドのオプション市場に関連する独自の取引戦略を持ち出したとして提起されたものでした。和解の詳細については公表されていません。
(出典:Financial Times)
パフォーマンスと業界での地位
2024年11月時点で、ミレニアムは年初来リターンが約12.5%と報告され、市場の変動にもかかわらず安定したパフォーマンスを維持しています。同社は投資家の関心を引き続き集めており、大手マルチストラテジーヘッジファンドが業界でますます支配的な地位を築いています。
(出典:Financial News London)
まとめ
ミレニアム・マネジメントは一貫したパフォーマンス、独特なマルチPMモデル、革新的なテクノロジーとリスク管理手法を用いて、金融業界で大きな影響力を持つ投資運用会社となっています。比較的有名にもかかわらず、詳しい内容があまり知られていない理由等として、マルチマネージャー方式により、模倣困難な形でファンドを運営しているためです。一方マルチマネージャー方式は過去の運用成績の再現性が低いと考えられる一方、その継続的なパフォーマンス実績は個別の戦略への高い理解と適切な資産配分が行われていると考えられます。これは下記のフレームワークが機能しているためと思われます。
ポートフォリオマネージャーの自律性:ミレニアムのモデルでは、ポートフォリオマネージャーがミレニアムのフレームワーク内で自己決定的に行動することを優先しています。つまり、ポートフォリオマネージャーは自身の投資プロセスを管理し、自身の結果を導くことが可能です。
起業家精神を重視した環境:ミレニアムでは起業家精神を重視した環境を提供し、ポートフォリオマネージャーが自分たちの投資プロセスを自由に管理し、自分たちの結果を導くことができます。これはポートフォリオマネージャーが自分の投資成果を引き出すための環境を提供することを目指しています。
リソースとテクノロジーの提供:ミレニアムはポートフォリオマネージャーの成功を加速させるために、高度なリソースとテクノロジーを提供します。これにより、ポートフォリオマネージャーは最新の情報や分析ツールを使用して、最善の投資決定を行うことが可能になります。
堅牢なリスク管理フレームワーク:ミレニアムの全ての活動は堅牢なリスク管理フレームワーク内で行われます。このフレームワークは、ポートフォリオマネージャーにとって透明であり、個々のチームとその戦略に合わせてカスタマイズされています。