欧州巨大ヘッジファンドがSPACに警戒

コラム

2021年3月、ソフトバンクグループが出資するSPACが米ナスダック市場に上場すると話題になりました。SPACは米国の新規上場によく用いられる手法で急成長している市場の一つですが、この仕組みに対して欧州著名ヘッジファンドのマーシャル・ウェイスが警鐘を鳴らしています。SPACの仕組みと今後の展望について解説します。

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SPACとは

SPACとはSpecial Purpose Acquisition Companyの略で、特別買収目的会社と訳されます。一般的な事業会社と異なり「買収」を目的に設立されることになるため、事業の実態はありません。

SPACを上場させて市場で資金調達を行って未上場会社を買収することで、手軽に未上場会社を上場させることが可能です。

一般の投資家にとっては、SPACのスポンサーに未上場企業の選定を任せられることが魅力の一つです。新型コロナウイルスの影響により不確実性の高まる相場で将来の成長予測が困難になる中、能力の高いSPACスポンサーの投資判断に賭けたいという個人投資家の意向と相まって2020年からSPACの上場が急増し、IPO全体の50%以上がSPACという結果になりました。

2021年も執筆時点(4月26日)で米国市場でのSPACはIPOの70%以上を占め、調達額1,000億ドル、上場数308件と既に2020年を超える水準と、SPACバブルともいえる状況となっています。

SPAC Research から作成

SPACのメリットと注意点

直近でブームとなっているSPACですが、どのようなメリットや投資する上での注意点があるのでしょうか。

SPACのメリット

スポンサー、一般投資家、被買収企業それぞれのメリットはこちらの通りです。

スポンサーはもちろん、被買収企業にとってもメリットの大きい仕組みです。通常のIPOであれば投資家からの需要に基づいて株価が決定されますが、SPACであれば固定価格での取引が可能です。市場のボラティリティが高い現在では、合併の対価を確実に決定できる点は被買収企業にとって大きなメリットと言えます。

一般投資家にとっても銘柄選定力のあるスポンサーに未上場企業での資金運用を任せることができる点はメリットと言えますが、注意すべき点も当然存在します。

SPACに投資する際の注意点

SPACの仕組みとして「SPACは上場から原則2年以内に企業の買収・合併を完了させる必要がある」というルールがあります。

2年以内に合併を完了させなければならないというプレッシャーから、一般投資家に不利な条件で買収を行ってしまうという利益相反の可能性があるといえます。

また、買収先の未上場企業について正確な評価を行うことは非常に難しい作業になります。

上場に見合う優良企業を選定できれば問題ありませんが、実際には個人投資家のマネーがSPAC投資に流れ込むことで本来であれば上場の基準を満たしていないような企業も上場できるようになっている可能性もあります。

実際に、合併後に株主にとって不利な事実が発覚して株価が大幅に下がることも多々あるようです。

例えば昨年6月にSPACと合併、ナスダックへ上場を果たしたニコラ・モーターは合併により大きく株価を上昇させましたが、その後誇大広告や虚偽の事業見通しを行ったとして会長が辞任、株価は合併前と同水準に落ち込んでいる状態です。

また、SPACによる合併後企業の株価は1年以内に30%以上下落する傾向があり、合併後までSPAC株式を保有する投資家のリターンは低い傾向にあることも別の調査で指摘されています。

SPACに警鐘を鳴らすヘッジファンド

SPACに対して懐疑的な立場であるマーシャル・ウェイスは、ポール・マーシャル、イアン・ウェイスの両氏が1997年に英ロンドンで設立したヘッジファンド運用会社です。

欧州株の運用で優れた手腕を発揮しながら規模を拡大し、現在の運用残高は550億ドルにも上る巨大ヘッジファンドです。2015年には機関投資家から最も評価の高いヘッジファンドとして評価された実績を持ちます。

創始者の1人であるマーシャル氏は、SPACに対して10億ドル以上のポジションを取っていることを明らかにしました。同氏は投資家向けのレターで、「SPACはスポンサーと一般投資家、被買収企業の歪んだ思惑が絡んでいる」と指摘。これまでひどいリターンをもたらしてきており、直近のSPACも例外ではないという見方を伝えました。

SPACに割り当てている資金のうち、直近ではショートポジションを増加させているそうです。

SPACのパフォーマンスは本当に悪い?

米スタンフォード大学ロースクールのマイケル・クラウズナー教授と米ニューヨーク大学のマイケル・オーロッギ助教が2019年1月から2020年6月の間に合併したSPACを対象に行った分析『A Sober Look at SPACs』で、合併から一定期間経過後のパフォーマンスを下表のように測定しています。

『A Sober Look at SPACs』から作成

いずれの期間も平均値、中央値ともにマイナスリターンとなっており、芳しくない値動きとなっていることがわかります。

SPACの今後

昨年から続くSPACブームが今後も継続するかどうかは定かではありませんが、将来合併される会社を知らずにSPACスポンサーの手腕に賭けて投資するという点では非常にリスクの高い投資と言えます。

その仕組みやリスクを理解しないままに投資している一般投資家も多く存在していることが容易に予測されることに加え、SPAC全体のパフォーマンスも低調な推移が続いています。空売りを活用できるヘッジファンドにとっては良い収益機会となりそうですが、SPACバブルがいつまで継続するかは状況を注視する必要があるでしょう。