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AT1債

AT1債(Additional Tier 1 Bonds)は、銀行が発行する優先株式に似た特徴を持つ債券の一種であり、資本規制の文脈で重要な役割を果たします。これは、バーゼルⅢ(国際銀行規制のフレームワーク)に基づき、銀行の資本構造を強化するために導入されました。以下に、AT1債の主な特徴をいくつか挙げてみます。

  1. 永久性: AT1債は理論上永久に存在することができ、そのため「永久性資本」とも呼ばれます。しかし、発行者は一定の期間後にこれらの債券を買い戻すオプションを持つことがあります。
  2. 利息支払いの制約: AT1債の利息支払いは、銀行の利益や資本レベルに応じて制約を受けることがあります。利益が不足している場合や資本基準を満たしていない場合、利息支払いを省略することができます。
  3. 損失吸収能力: AT1債は、銀行が財務上の困難に直面している場合に、損失を吸収する能力を持っています。特定のトリガーイベント(たとえば、資本レベルが一定の閾値を下回る)が発生すると、AT1債は株式に変換されるか、または一部または全部が帳消しになることがあります。
  4. 優先順位: AT1債は、債務の優先順位において通常の債券や預金よりも低い位置にありますが、株式よりは高い位置にあります。
  5. 配当制約: AT1債の利息支払いが省略される場合、通常、発行者は株式配当を支払うことができません。
  6. 資本認識: 銀行のコア資本として認識され、資本基準を満たすために使用されます。

これらの特徴により、AT1債は銀行の資本構造を強化し、金融システムの安定を促進することができます。しかし、高いリスクを伴うため、投資家はこれらの債券のリスクを理解し、適切に評価する必要があります。

AT1債は広くはCoCo債といわれる偶発的転換社債も含まれ、発行条件によっては株式への転換だけでなく、減損される可能性もああります。

クレディスイスのAT1債破綻と三菱UFJへの影響

クレディスイスの財務危機は、2023年3月に同社がUBSと合併する形でスイス当局により救済された際に、クレディスイスのAT1債が無価値化されたことで頂点に達しました​1​​2​。この合併により、約170億ドル(約2兆2,600億円)相当のクレディスイスのAT1債が無価値化され、AT1債のリスクが投資家と金融市場に露呈されました​1​。

これに続き、日本の個人投資家は三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対し、クレディスイスのAT1債の販売に関する訴訟を起こしました。投資家は、証券会社からAT1債のリスクについて適切に情報提供を受けていなかったと主張しています​3​​4​。訴訟は、東京地方裁判所で東京に拠点を置く山崎丸之内法律事務所により、66の影響を受けた一般のクレディスイスAT1債投資家を代表して提起されました​4​。これにより、投資家は三菱UFJモルガン・スタンレー証券から3500万ドルの損害賠償を求めています​2​。

目次

At1債とCoCo債、永久劣後債の比較

特徴 / 資本機器AT1債CoCo債永久劣後債
期間永久性有限(但し条件により変換または損失吸収が発生)永久性
利息支払い利益や資本レベルに依存通常固定または変動利率固定または変動利率
損失吸収能力あり(特定条件下で株式変換または損失吸収)あり(特定条件下で株式に変換)なし
優先順位低(株式より高いが、他の債券より低い)低(株式より高いが、他の債券より低い)低(株式より高いが、他の債券より低い)
株式変換機能あり(特定条件下)あり(特定条件下)なし

AT1債CoCo債(Contingent Convertible Bonds)、および永久劣後債は、いずれも金融機関が資本基準を満たすために利用することができる資本機器ですが、それぞれに異なる特徴があります。

  1. AT1債 (Additional Tier 1 Bonds):
    • 永久性があり、理論上は無期限に存在することができます。
    • 利息支払いは利益や資本レベルに依存し、条件が満たされない場合には省略される可能性があります。
    • 一定のトリガーイベント(例: 資本レベルの低下)が発生すると、株式に変換されるか、または債券の価値が減少または無価値化される可能性があります。
  2. CoCo債 (Contingent Convertible Bonds):
    • CoCo債は、特定のトリガーイベントが発生した際に株式に変換される債券です。
    • トリガーイベントは通常、発行者の資本レベルが特定の閾値を下回ることなどと定義されます。
    • AT1債と同様に、CoCo債は損失吸収能力を持ち、金融機関の資本状況を強化することを目的としています。
  3. 永久劣後債:
    • 永久劣後債は、無期限に存在することができる劣後債であり、固定または変動利息を提供します。
    • 他の債券と比較して優先順位が低く、財務危機の際には他の債権者に後回しにされる可能性があります。
    • ただし、永久劣後債は通常、株式に変換される機能を持たないため、CoCo債AT1債とは異なります。

以上のように、これらの資本機器はそれぞれに独自の特徴と条件を持っています。AT1債CoCo債は、特定の条件下で損失吸収または株式変換機能を提供する点で類似していますが、永久劣後債はこのような機能を持たないため、リスクプロファイルが異なります。また、これらの資本機器は、金融機関の資本構造を強化し、規制資本要件を満たすために設計されています。

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この記事を書いた人

業界最大手の投資助言会社ヘッジファンドダイレクト株式会社が運営。富裕層向けに投資助言契約累計1361.3億円の実績があります(2022年末時点)。
当社の認定ファイナンシャルプランナー(CFP、国際資格)、証券アナリスト(CMA)が監修して、初心者にも分かりやすく、良質な情報をお届けしています。

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