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YCC解除で日銀とヘッジファンドは対決するのか?
最近日本のイールドカーブコントロール(YCC)解除に関連して、ヘッジファンドと日銀の対立を報道する記事が増えています。
・「ヘッジファンドvs日銀」、国債めぐる攻防の行方
・日銀がヘッジファンドに負ける?戦う中央銀行、FRB・ECBは連戦連勝だが日銀は苦戦
・日銀の異次元緩和がヘッジファンドとの攻防に勝つこれだけの理由=丹治倫敦
・再び日銀に挑む海外ファンド-日本勢は6月ほど国債売られずと想定
なぜそのような記事が増えているのかをヘッジファンドが他国の中央銀行と戦ったといわれているイギリスの「暗黒の水曜日」と「スイス・フランショック」を事例に日銀とヘッジファンドの関係を専門家が解説します。
イギリスの中央銀行がヘッジファンドに負けた日
1992年9月16日、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、ヘッジファンドマネージャーのジョージ・ソロス氏に対して「負けた」と評される出来事が発生しました。これは、イギリスが欧州連合の固定為替相場制度(ERM)からポンドを撤退せざるを得なくなった「暗黒の水曜日」として歴史に名を刻んでいます。
イギリスが欧州連合の固定為替相場制度から離脱した背景
1990年代初頭、イギリスは欧州連合(EU)の為替相場メカニズム(ERM)に参加していました。ERMは、各国の通貨が相互に固定された為替レートで取引されることを目指しており、各国の中央銀行は為替レートが一定の範囲内に維持されるように介入していました。
イギリス経済は当時インフレと失業率の上昇に悩まされており、政府は金利を引き下げることで経済を刺激しようとしていました。しかし、ERMに参加していることで、ポンドはドイツマルクに対して高い為替レートを維持しなければならず、金利を下げることができませんでした。つまり英ポンドは当時の本来の実力に対して、為替相場メカニズムのために高めの価格を市場介入によって維持していたことになります。
ジョージ・ソロスは、この状況を長続きせず、ポンドの価値が下落することを予想しました。ソロスは、イングランド銀行がポンドの価値を維持できないだろうと考え、彼のヘッジファンドであるクォンタム・ファンドを通じて約100億ドル相当のポンドを売却しました。
イングランド銀行は、ポンドの価値を維持するために、外国為替市場でポンドを買い支えようとしました。当時のイングランド銀行総裁は、金利を一時的に15%まで引き上げるという強硬手段を取りましたが、市場の圧力はあまりにも強く、これらの対策も十分な効果を発揮できませんでした。
結局、イングランド銀行はポンドを守るための外貨準備が底をつき、市場からの圧力に屈する形で、ポンドの切り下げを決定しました。この結果、イギリスはERMから撤退せざるを得なくなりました。
ソロスは、ポンドが切り下げられることで、彼が売却したポンドをより安い価格で買い戻すことができました。これにより、彼は約10億ポンド(当時のレートで約10億ドル)の利益を上げることに成功し、イングランド銀行に対して勝利したとされています。
ジョージ・ソロスは英銀行と戦ったのか?
暗黒の水曜日は、ヘッジファンドがイギリスの中央銀行を破ったといわれています。それでは仮にヘッジファンドがいなかった場合、イギリスは固定為替相場を維持できていたのでしょうか?その答えは限りなくNOの可能性が高いといわれています。
本来の実力より為替レートを高く維持するためには、外貨売りの自国通貨買いを行うか、自国の金利を高くして、海外からの資金流入が継続する環境を作る必要があります。
外貨売りの自国通貨買いを行うには中央銀行が潤沢な外貨準備が必要となり、長続きするとは負えません。また金利を高くすることで自国経済に悪影響が生じることが考えられます。
したがって、政策のゆがみが修正されることを予想してポジションを構築することは、早かれ遅かれ行われた可能性が高いと思われます。よってヘッジファンドがイギリスの中央銀行に勝ったというのは、言い過ぎで、現実的には政策の修正の可能性を早くの段階から気づいたというのが実態です。
スイスフラン・ショックとヘッジファンド
スイスフラン・ショックとは
スイスフラン・ショック(Swiss Franc Shock)は、2015年1月15日にスイス中央銀行(スイス国立銀行)が突然、ユーロに対するスイスフランの固定相場制を解除したことにより、スイスフランが急激に高騰し、金融市場に大きな衝撃が走った現象を指します。
2011年9月からスイス中央銀行は、ユーロ危機の影響でスイスフランが過剰な強さを持っていたため、スイスフランの国際競争力を保つためにユーロとの為替レートを一定の範囲内に維持する政策を採用していました。そのため、スイスフランの価値が1ユーロあたり1.20フランを下回らないよう、積極的に市場介入を行っていました。
しかし、2015年1月15日にスイス中央銀行は突然、ユーロとの固定相場制を解除すると発表しました。これにより、スイスフランは短期間で急激に高騰し、1ユーロあたりのスイスフランの価値が0.85フランまで上昇しました。この急激な変動は、為替市場や金融市場に大きな混乱を引き起こし、多くの投資家や企業が損失を被った一方、一部のヘッジファンドは高いリターンを上げました。
スイスフラン・ショック時は、ヘッジファンドがスイス中央銀行に勝ったといわれることはあまりありませんでした。
一部のヘッジファンドはなぜスイスフラン・ショックを予想できたのか?
スイスフランショックにおいて、スイスフランの高騰を予測してポジションを取っていたヘッジファンドは、マクロ経済や中央銀行の政策、金融市場の動向などを緻密に分析し、事前にリスクシナリオを検討していたと考えられます。そのため、一部のヘッジファンドは金融政策会合の前にユーロで資金調達し、スイスフランを購入することで、リスクを下げながら、高いリターンを挙げていたと考えられます。
ユーロ圏の金融緩和政策
当時、欧州中央銀行(ECB)が量的緩和政策を導入することが予想されており、それに伴ってユーロが下落することが予想されていました。これにより、スイス中央銀行がユーロとの固定相場制を維持するための介入コストが増大するリスクがあったため、ヘッジファンドは固定相場制の解除を予測していた可能性があります。
固定相場制の持続性への懸念
スイス中央銀行がユーロとの固定相場制を維持するためには、大量のユーロを買い支える必要がありました。これにより、スイスの外貨準備が急速に増加し、持続性に疑問が呈されていました。一部のヘッジファンドは、この問題に着目し、固定相場制の解除を予測していたと考えられます。
市場の過度なコンセンサス
当時、市場ではスイスフランとユーロの固定相場制が維持されるという強いコンセンサスが形成されていました。一部のヘッジファンドは、市場の過度なコンセンサスに逆らってポジションを取ることで、リターンを追求する戦略を採用していた可能性があります。
将来、日銀がYCC解除したらヘッジファンドのせいなのか?
イールドカーブコントロール(YCC: Yield Curve Control)は、日本の中央銀行が金融緩和政策の一環として実施している政策です。2016年9月に導入され、長期金利を誘導し、イールドカーブ(利回り曲線)を適切な形状に保つことを目的としています。
イールドカーブコントロールの目的は、金融緩和効果を最大化し、デフレからの脱却や物価安定目標(2%のインフレ率)の達成を促すことです。これにより、企業や家計の借り入れコストが低下し、経済活動が活性化されることが期待されます。また、イールドカーブの形状を誘導することで、金融機関の収益構造を改善し、金融システムの安定性も維持することが狙いです。
具体的には、10年物国債の利回りを約0%(現在は0.5%)に維持することを目標に、必要に応じて国債の買い入れを行います。これにより、イールドカーブが緩やかな上向きの形状を保ち、金融緩和効果が確保されることが狙いです。
イールドカーブコントロールは、従来の量的金融政策とは異なり、金利を直接誘導することで金融緩和効果を追求する新たなアプローチです。しかし、長期的な金利低下が金融機関の収益性に悪影響を与えることや、国債市場の機能が低下する懸念など、イールドカーブコントロールには一部批判も存在します。長期金利の低下により、金融機関の収益性が損なわれることで、経済の成長や金融安定性に悪影響が及ぶ可能性があります。また、過度な日銀の市場介入により国債市場の売買量が減り、機能が低下すると、市場の流動性や価格形成機能が損なわれる恐れがあります。
イールドカーブコントロール(YCC)はいつか終焉する
現状YCCによって、国債の市場機能は限りなく低下しており、現状ほぼ同じ年限の国債について発行市場と流通市場で異なる金利が存在しています。そのような環境は、イギリスの通貨を高い価値で維持しようとすることや、スイスの中央銀行の外貨買い、スイスフラン売りの為替介入によりスイス中央銀行のバランスシートが膨れ上がりすぎている状況と同じく、長くは続かないと考えられます。
YCC解除のような環境の変化が起こると見込まれる場合、ヘッジファンドにとって収益の機会があると考えられます。それは日銀と対決することではなく、多くの収益源と同じくイベントの一つでしかないため、戦うなどという意向は特になく、淡々と行っていると思われます。
おそらく、YCC解除の時はスイスフランショックのように、ヘッジファンドが日銀に勝ったといわれることは一部の報道を除いて多くはないと考えられます。それはヘッジファンドがいなくてもYCC解除が行われる可能性が高かったためです。
日本銀行(日銀)の2023年7月の決定は、イールドカーブ・コントロール(YCC)の段階的な終了の始まりである可能性があります。日銀は、長期金利の上限を事実上1%に設定し、国債利回りの上昇が緩やかで、かつ経済成長およびインフレと整合的である限り、これを容認する方針を採りました。
しかし、国債利回りが急速に1%に達する可能性が懸念されています。それでも、PIMCOは、日本国債の利回りは引き続き抑制され、日銀の2%のインフレ目標が最終的に達成されるまで、国内投資家の強い需要が利回りを抑えるだろうと予想しています。
日銀、イールドカーブ・コントロールの終了に向かう(PIMCO)
日本の財政破綻を予想した日本国債売りとの違い
実は、今回のイールドカーブコントロールの解除とは関係なく、日本の大量の国債発行の状態から、将来的に日本国債の金利が高くなると考えて、日本国債を大量に売るヘッジファンドが一部いました。
そうした日本の国債を積極的に売却していたヘッジファンドの多くは損失を出したといわれています。有名なところではヘイマン・キャピタルのカイル・バス氏が有名です。
カイル・バス(Kyle Bass)氏は、アメリカのヘッジファンドマネージャーで、ヘイマン・キャピタル・マネジメント(Hayman Capital Management)の創設者です。彼は、2008年のサブプライム・ローン危機を正確に予測し、その後の金融危機で多額の利益を上げたことで有名です。
カイル・バス氏は、2010年代初頭から日本の国債市場に関心を持ち、その後、日本の国債売り戦略を展開しました。彼の戦略の根拠は、日本の高い財政赤字と巨額の国債残高、および長期的なデフレ圧力により、日本国債の価格が下落し、金利が上昇するとの見方でした。彼は、日本政府が国債の利払い負担に耐えられなくなり、インフレが加速し、日本円が大幅に下落すると予測していました。
しかし、彼の予測は現実とは異なる結果になりました。日本銀行は、量的・質的金融緩和政策(QQE)やイールドカーブコントロール(YCC)などの金融政策を実施し、金利を抑制し続けています。
今回のYCC解除を予想した国債の売りは、日本の債務状態とは関係なく、インフレや金利に関するマクロ環境の問題で、財政破綻による暴落とは無関係です。
まとめ
暗黒の木曜日もスイスフラン・ショックもマクロ環境から金融政策の変更が見込まれたため、予想をもとにポジションをとったヘッジファンドは高いリターンを上げましたが、中央銀行とは対決はしていなかったと考えられます。
日銀がYCC解除するにしても、ヘッジファンドのせいで解除することはなく、日銀とヘッジファンドが直接対決することはないと考えられます。