MMTって何?最新の経済理論をわかりやすく解説!

その他
2022年10月07日

日本の国会でも議論され、最近になって注目されている経済理論であるMMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)について解説します。

主流の経済理論とは異なる考えをしているため現時点では批判も多い理論ですが、新しい視点を持っていることから経済政策に影響を与えることも予想できます。株式市場の行方を占う上でも重要な考え方なので、基本的な点を抑えられるように紹介します。

MMTとは

MMTをひと言で説明すると、「自国通貨を発行する政府は、財政赤字の心配をする必要がないのだから、高インフレにならない限り完全雇用の実現に向けて積極的な財政政策を行うべき」という理論です。

最近になって注目を浴び始めましたが、起源は1990年代にアメリカの投資家であるウォーレン・モスラーやバード大学教授のランダル・レイらによって提唱された考え方です。

MMTの主要発信者の1人であるステファニー・ケルトン氏が2016年大統領選挙時に米サンダース上院議員の顧問を務めていたこともあり、ここにきて注目が集まっています。

「国の借金が令和2年度末で1,125兆円になり、人口で割ると1人当たりの借金は約897万円になる」

しばしば目にするこうしたニュースにより、財政赤字により将来世代へのつけを残さないよう財政の健全化に向けて消費税の増税や社会保障費の削減にも我慢しなければいけないという「常識」が擦り込まれています。

日本では財務省が60ページ以上の反論資料を作るなどMMT批判の論調となっていますが、MMTの内容や批判されている理由をみていきましょう。

MMTの考え方

長く支持されているケインズ経済学派の経済学者がこぞってMMTを批判する理由は、「貨幣」の定義が異なっているからです。

  • 主流派経済学の「商品貨幣論」

貨幣の歴史を辿ると、下記のような流れになります。

主流派経済学の貨幣の捉え方は、物々交換の代替手段として貨幣が誕生し、不換紙幣となった今でも紙幣は貨幣としての役割を果たし続けるという商品貨幣論がベースになっています。

市場の誰もが貨幣=価値のあるものと信じていることが大切であるという考え方といえます。

貨幣の歴史図
  • MMTの「信用貨幣論」

主流派経済学の考え方とは異なり、「貨幣とは負債の一種であり、経済において交換手段として受け入れられた特殊な負債である」という信用貨幣論がMMTの考え方となります。わかりやすく説明すると、下図のようになります。

信用貨幣論では貨幣=政府に返すべき借金であり、納税の手段になることからその価値が担保されていると主張します。

MMTの考え方では政府は貨幣を無尽蔵に作り出せるだめ、「政府の支出を賄うために税金が必要」なのではなく、「政府が国民に課した税金を払うために貨幣が必要」なのです。

主要経済学の考え方だと「だれもが貨幣としての価値があると信じて使っている」から貨幣の価値が保たれているという少し頼りない説明となってしまいます。

信用貨幣論の考え方に基づくと、貨幣を創造できる政府は財政破綻を恐れることなく積極的な財政出動を行うべきという結論になります。

インフレには注意する必要

MMTへの批判として多いものが「財政赤字を続けていけば必ずインフレが起こり、ハイパーインフレなど大変なことになる」というものです。自国通貨を刷り続けてしまえば需要が増大してインフレになりますし、最終的にはハイパーインフレとなりお札はただの紙切れとなってしまいます。そのためMMTにとっても財政赤字の制約はインフレ率で決まり、過度なインフレにならないよう増税や財政支出を減らすなどの対策によりコントロールする必要があります。

しかしここ20年あまりの日本を例に挙げ、財政赤字を続ければ必ずインフレが起こるという批判は間違っているとMMTは主張しています。

実際に巨額の財政赤字を抱える日本やアメリカで高インフレが起こる兆候は無く、政府は財政赤字を気にせず財政政策を行い経済成長させるべきだということがMMTの主張です。

MMTは日本で実現できるか

近年注目されている新しい経済理論であるMMTですが、自国通貨を発行する日本で実行することは可能なのでしょうか?

・日本はすでにMMTを導入しているか

日銀が異次元の金融緩和で国債を買い上げていることから「日本はすでにMMTを実行している」という意見もありますが、これは正確ではありません。その理由は、日銀の当座預金が増加したままで社会に出回っている貨幣量はそこまで増加していないからです。

日銀のデータを見ると、世の中に存在するお金の量であるマネタリーベースは増加していますが、民間の金融機関が社会に供給している資金量であるマネーストックはそこまで増えていません。

※日銀より作成(2020年は1~9月)

民間に出回る資金が増えてこそ景気上昇につながりますが、それができていない以上日本の政策はMMTに似ているだけで、MMTそのものではありません。

・政府の方針

日本政府は中長期的な財政再建を目標としており、MMTが廃止するべきと考えている消費税の増税を行っています。何か政策を行うときも「財源をどうするか」という議論が常に行われることから、MMTの考え方とはかなり異なっていることがわかります。

財務省や政府の方針からすぐにMMTを日本で実現することは難しいと考えられますが、積極的に財政政策を行っても良いという新たな考え方を示したという面では、今後十分に検討される余地があるのではないでしょうか。

伝統的経済学との対比

伝統的な経済学は大まかにいうと次のような順番で発生してきました。①重商主義②古典派経済学③マルクス主義④ケインズ経済学⑤新古典派⑥MMT?といった流れです。基本的に各経済学は従来の問題点を克服するために生まれてきたといえるでしょう。MMTはこれらの理論とどのように異なるのか簡単にみていきましょう。

各経済学のイメージ

重商主義経済学:資本主義とは富の蓄積である

重商主義経済学は、保護貿易などを通じて輸出を増やし、輸入を減らすことで、貴金属や貨幣を国内に蓄積することにより、国富を増すことを目指すことを重視した経済学です。

しかしこの施策はヒュームによって、欠点が指摘されています。長期的には国内への富の蓄積に伴って、他国より物価が上昇し、結果的に貿易は赤字体質になりやすくなり、当初の目的を達成できなくなるという帰結を迎えると考えられます。そのほかに植民地を使ったブロック経済圏の構築や帝国主義をもたらしたとして、問題が多い考え方です。トランプ大統領は比較的重商主義的と言われています。

またMMTの考え方は後に紹介する労働価値説というよりは、表券主義的な貨幣的価値を重視しており既存の経済学とは系譜がだいぶ違うと考えられます。ただMMTとしては商品貨幣論と言われる、希少性に価値を根差した通貨制度ではなく、あくまで政府が価値を規定する表券主義に基づいた、納税のために用いられる名目的な価値と定めています。

古典派経済学:資本主義は安定的である(均衡する)

アダム・スミスは①労働価値説②神の見えざる手(均衡理論)③小さな政府④分業の重要性などを説きました。

重商主義では価値は貨幣そのものにありましたが、アダム・スミス以降は労働価値説と言われる、人間の労働が価値を生むという考え方が主流になっていきました。

また均衡理論も重要なポイントです。アダム・スミスの下では「神の見えざる手」により、供給と需要が均衡する点が一番効率的であり、短期的な非効率はあっても長期的には効率的な経済が進展すると考えていたのです。MMT理論ではシンプルに読むと労働価値説には否定的なように読め、また市場の効率性について、完全雇用は達成できていないという観点から否定的です。

政府の役割については、古典派経済学では小さな政府を重視してあくまで政府は補助的な立場ですが、MMTではある意味主体が政府というほどの力を持っており、MMTが現実となった時は、巨大な力を持つ政府をどのように管理していくかは重要な論点になると思われます。実際MMTでは裁量的な財政支出は否定しており、機械的に財政支出と税金によるインフレ抑制を行う仕組みの構築が必要と言われています。

また古典派経済学は貨幣は交換手段であり、中央銀行が流通量を増やせばインフレに、流通量を減らせばデフレになる貨幣ヴェール観(貨幣数量説)を持っており、貨幣の流通量は中央銀行がコントロールするべきと考えています。一方MMT理論では流通量は民間銀行が融資をしたときに信用創造により流通量が増えると考えており、中央銀行が貨幣の流通量を機動的に変更することはできないと説明しています。(この考え方は実はいわゆる日銀理論と同一です)

古典派経済学は不況等、均衡理論では解決できない点が問題として挙げられます。

マルクス経済学:資本主義は自然と崩壊する

マルクス経済学は古典派経済学から労働価値説を継承し、その中身は「疎外された労働」であると説明します。マルクスは純粋な労働力というのは個人から切り離された非人間的な価値観であり、資本家と労働者を対比的にとらえました。マルクス自身はそこまで主張していなかったようですが、最終的には階級闘争により労働者が資本主義を打倒することで、共産主義が最終的な形態として成り立つと考えられています。これはソ連や中国などで資本主義とは別の経済として分離していくこととなります。MMT理論ではポストケインジアンと呼ばれる、ガルブレイズやミンスキー等資本主義自体が持っている(外的ではなく)内的不安定性を中心に据えているため、マルクス経済的な印象や、次に紹介するケインズ経済学的な印象も持つこともあります。

ケインズ経済学:資本主義は不安定である

古典派経済学は、市場は均衡するという考えを基礎としていましたが、ケインズは、不況期には「神の見えざる手」は機能せず、政府が正常化させるために積極的に関与すべきと主張しました。古典派の経済学が「供給」を中心に考えていましたが、ケインズ経済学は「需要」を中心に経済をとらえていた点で視点が大きく異なったのです。どちらの経済理論でも経済の中心は民間であり、政府はそれを補助する存在としてとらえていた。

MMT理論では人間が貨幣を必要とするのは政府が税金をかけるためであり、納税のために貨幣を求めると規定しています。そして貨幣が市場に出回るためには政府が先にお金を使い赤字を作る必要があるという、スペンディングファーストを主張しています。この場合主体としての政府が、個々人よりも重要になってくる点で、アダム・スミス以来続いていた、経済の主体は民間で、政府はそれを補助するための物というところを一歩前に進めたことになります。

そういった意味で、積極的な財政主義のケインズ経済学よりもMMTは政府を中心とした経済学の構築となり大きく視点が異なるといえるでしょう。

ケインズ経済学を中心とした積極財政主義の多くは、インフレを招きました。ただしインフレとともに失業率も下がっていたことから、効果はあると受け入れられていました。しかし1970年代の高い失業率と高いインフレが同時に起きるスタグフレーションの発生から、フリードマンを代表とする新古典派の波を抑えることができず、主流を譲っていくことになります。

一般にMMTはケインズ経済学にミクロ経済学的な要素を組み込んだポストケインジアンの一派とされています。ミンスキーなどはケインズ経済学を独自の理論で再構築した金融不安定仮説を述べており、MMTにも大きな影響を与えたと考えられます。

新古典派経済学

新古典派経済学は古典派経済学を基礎として、自由市場が効率的であると考え、より数学的に緻密に構成された経済学です。基本は市場は均衡するが、適切な金融政策を行うことで不均衡な局面でもコントロール可能と考えています。主にフリードマンとロバート・ルーカスが中心と考えられます。

フリードマンはマネタリストとも呼ばれ、政府が貨幣の流通量をコントロールすれことで経済はうまくいく、大恐慌が起きたのは、貨幣の流通量が不足したからだと説明しました。そのためマクロ経済政策の中心は金融政策であり、金融政策の目標は物価の安定(米国は雇用の安定も)とされていました。

これに対して、MMTは金融政策は効果がない、または限りなく不確定なもので、中央銀行に経済をコントロールする機能はないと説明しています。MMTではインフレのコントロールは金融政策ではなく税金でコントロールするという考え方で、隔たりが最も大きい部分と言えるでしょう。

またロバート・ルーカスは合理的期待形成仮説を唱え、裁量的な財政支出の効果がないことを主張しました。政府が仮に裁量的な経済政策を行ったとしても、企業も個人も将来的に増税になるなどで負担が発生すると考えるため、支出を減らすため、経済政策に意味はないという理論です。

これに対してMMTは「政府の赤字は個人の赤字と異なり、持続可能である」という基礎的な考え方をもとに、前提となる「増税」議論を強い言葉で否定しています。これは合理的期待形成仮説自体は存在するため、財政支出が行われた後に増税があるという懸念を解消するためであると考えられます。これは実際に財政支出するだけではなく、個人の合理的期待を一気に変更する必要があり、2つの壁があるといえるでしょう。

MMTが主流は経済学に否定される大きな理由として、やはりケインズ経済学が失敗した財政出動によるインフレを本当に税金によってコントロールできるのか?MMTは提唱者は、就労を望む者全員に政府は雇用を保証すべきだと主張しているが、自然失業率以上の財政支出はインフレにつながる可能性が高いのではないかという点です。また通貨の信用の維持ができなければ、変動相場制において他国との通貨の交換価値を維持できないのではないかとみられています。

おわりに

新しい経済理論であるMMTについて、内容を簡単にご紹介しました。自国通貨を発行する国は財政赤字を気にする必要がないという画期的な主張で、前例がないこともありすぐに実行に移す政府はまだありませんが、貨幣に対する考え方などは目新しく今後の財政政策に与える影響は小さくないのではないでしょうか。

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